マルチプロセッサシステムシミュレーション用 並列計算プログラムの作成

マルチプロセッサシステム上で実行する 並列計算プログラムの作成方法について説明する。 simple_bus_system/tests/test内に、 並列計算プログラムの作成を助ける次のプログラムが入っている。 これらのプログラムのコンパイルには、 同じディレクトリ内にISIS-SimpleScalarのaddress.hへのリンクが 貼ってある必要がある。

ln -s /usr/local/sim/isis-ss/include/isis/address.h address.h

• get_puid.c
  • プロセッサIDを読み出すためのアドレスへアクセスするプログラムである。 mainプログラムに、

      unsigned int puid = get_puid(); 
      if ( puid == 0 ) {
        処理A;
      }
    

    と記述すれば、プロセッサIDが0のプロセッサのみが処理Aを行う。

• get_punum.c
  • システム上のプロセッサ数を読み出すためのアドレスへ アクセスするプログラムである。 mainプログラムに、

      unsigned int punum = get_punum();
    

    と記述すれば、punumにプロセッサ数が代入される。

• barrier.c
  • すべてのプロセッサで同期をとるためのプログラムである。 mainプログラムに、

      barrier();
    

    と記述すれば、すべてのプロセッサがこのbarrier()に達するまで、 他のプロセッサはbarrier()から抜けない。つまり、

      処理A;
      barrier();
      処理B;
    

    と記述すれば、すべてのプロセッサが処理Aを終了してから、 各プロセッサは処理Bを始める。

• shared_addr_allocate.c
  • address.hで定義されたSHARED_MEM_TOP〜SHARED_MEM_BOTTOM の範囲からデータ領域を確保するプログラムである。 mainプログラムに、

      unsigned int *mem;
      mem = (unsigned int *)shared_addr_allocate(sizeof(unsigned int));
    

    と記述すれば、すべてのプロセッサで共有されるunsigned int型の大き さの領域をSHARED_MEM_TOP〜SHARED_MEM_BOTTOMの範囲から 確保する。

• shared_addr_for_sync_allocate.c
  • address.hで定義された SHARED_MEM_FOR_SYNC_TOP〜SHARED_MEM_FOR_SYNC_BOTTOM の範囲からデータ領域を確保するプログラムである。mainプログラムに、

      unsigned int *mem;
      mem = (unsigned int *)shared_addr_for_sync_allocate(sizeof(unsigned int));
    

    と記述すれば、すべてのプロセッサで共有されるunsigned int型の大き さの領域をSHARED_MEM_FOR_SYNC_TOP〜 SHARED_MEM_FOR_SYNC_BOTTOMの範囲から確保する。

• fad_addr_allocate.c
  • 同期機構を実現するためのFetch and Decを行うためのプログラムである。 mainプログラムに、

      unsigned *mem;
      mem = (unsigned int*)fad_addr_allocate(sizeof(unsigned int));
    

    と記述すれば、すべてのプロセッサで共有されるunsigned int型の大きさの 領域をaddress.hで定義された FAD_MEM_TOP〜FAD_MEM_BOTTOMの範囲から確保する。 その後、

      if ( get_puid() == 0 )
          *mem = get_punum();
    
      barrier();
    
      unsigned int *a;
      a = (unsigned int *)shared_addr_allocate(sizeof(unsigned int));
      *a = 0;
    
      if ( *mem > 1 )
          while(!(*a)) {}
      else
          *a = 1;
    

    と記述し、シミュレータのFAD_MEM_TOP〜FAD_MEM_BOTTOM へのメモリアクセスに対する処理を
    • メモリの値を読み出し、その値から1引いた数をメモリに書き込む
    • プロセッサには、1引く前の値を返す
    とすれば、すべてのプロセッサ間で同期を取ることができる。 これを応用したものが上記したbarrier.cである。

• tas_addr_allocate.c
  • 同期機構を実現するためのTest and Setを行うためのプログラムである。 mainプログラムに、

      unsigned *idlock;
      idlock = (unsigned*)tas_addr_allocate(sizeof(unsigned));
    

    と記述すれば、すべてのプロセッサで共有されるunsigned型の大きさの 領域をaddress.hで定義された TAS_MEM_TOP〜TAS_MEM_BOTTOMの範囲から確保する。 その後、

      unsigned int *id;
      id = (unsigned*)shared_addr_allocate(sizeof(unsigned));
      *id = 0;
      unsigned int Mynum;
      *idlock = 1;
      
      barrier();
      
      while (*idlock) {}
      
      Mynum = id;
      id++;
      
      *(Global->idlock) = 1;
    

    と記述し、シミュレータのTAS_MEM_TOP〜TAS_MEM_BOTTOM へのメモリアクセスに対する処理を
    • メモリの値が1ならばメモリに0を書き込みプロセッサに0を返す
    • メモリの値が0ならプロセッサに1を返す
    とすれば、各プロセッサのMynumがすべて異なる値となる。

• system_clock.c
  • このプログラムは、統計データを取得するためのものであり 並列計算プログラムの作成を助けるためのものではないが、 説明する。ISIS-SimpleScalarでは、 0xd0000000番地へのメモリアクセスがあってから 0xd0000100番地へのメモリアクセスがあるまでカウントされる 特定部分統計データの取得が可能である。 0xd0000000番地へアクセスするコードと 0xd0000100番地へアクセスするコードを シミュレータが実行するプログラムに埋め込むことによって、 ユーザは任意の部分の統計データを取ることができる。

  • mainプログラムに、

      unsigned int start = calc_start();
    

    と記述すれば、0xd0000000番地へのアクセスが発行される。 つまり、特定部分統計データの取得が始まる。

      unsigned int end = calc_end();
    

    と記述すれば、0xd0000100番地へのアクセスが発行される。 つまり、特定部分統計データの取得が終了する。 取得された統計データは、 実行終了時に全時間統計データとは別に出力される。

• Makefile
  • SimpleScalarが/usr/local/sim/simplescalar-instに インストールされているとする。

      CC = /usr/local/sim/simplescalar-inst/bin/sslittle-na-sstrix-gcc
    

    PROGRAMでコンパイルソースを指定する。

      PROGRAM = main.c \
                get_puid.c \
                get_punum.c \
                barrier.c \
                shared_addr_allocate.c \
                shared_addr_for_sync_allocate.c \
                fad_addr_allocate.c \
                tas_addr_allocate.c \
                system_clock.c